「自分の意見をはっきり言うことが大切」と言われる一方で、「周囲との協調性を重んじるべき」とも言われる世の中。
このダブルバインドに悩まされているという人は、意外と多いのではないでしょうか。
しかし、ダブルバインドに悩まされているのは大人だけではありません。
子どもだって「自己表現」と「協調性」の狭間で苦しみ、もがいています。
ただ、「自己表現」と「協調性」はどちらも同じくらい大切なもの。
この2つを両立してこそ「真のコミュニケーション能力」を身に付けることができるということもまた、疑いようのない事実です。
今回は木内亜紀先生(玉川大学 教育学部 教員)の論文「対話的な学びにおける学習指導―自己表現と協調性に焦点をあてて―」(2019年)をもとに、「自己表現」と「協調性」を両立し、「真のコミュニケーション能力」を培う方法について紹介します。
もくじ
日本人は自己表現が苦手
小さいときは授業中も活発に発言していたのに、成長してからはからっきし…。
日本ではそういった子どもがたくさん見られます。
これは、子どもたちが「自己表現」を捨て、「協調性」に特化した姿です。
もしかすると、「コミュニケーション能力が上がって自分の意見を主張するばかりではだめだと気づき、人の話を聞けるように成長したのだろう」と考える人もいるかもしれません。
しかし、先ほども述べましたように「自己表現」と「協調性」を両立できていなければ「真のコミュニケーション能力」を身につけているとは言えません。
「自己表現」を捨て去って何も主張しなくなってしまった子どもたちのコミュニケーション能力は、「自己表現」と「協調性」のバランスを取ろうともがいていた幼いときよりも、むしろ下がってしまっています。
では、なぜ日本の子どもたちは「自己表現」をしなくなってしまうのでしょうか。
さまざまな理由が考えられますが、中でも有力な理由としては「適切な話し合いの方法を学ぶ機会に恵まれなかった」ということが挙げられます。
しかし、「自己表現」ができなくなったわが子を見て「不幸だった」と諦めるのは時期尚早です。
裏を返せば、「適切な話し合い」の方法を学びさえすれば、「自己表現」と「協調性」の両立ができるようになるのですから。
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「ルールを設けた話し合い」が自己表現と協調性の両立コツ
「適切な話し合い」とは一体何か。
頭に疑問符を浮かべている人も多いでしょう。
「適切な話し合い」とは、平たく言えば、「ルールを設けた建設的な話し合い」のことです。
イギリスの教育学者ニール・マーサーは、質の高い話し合いをするためには、参加者全員が共有する「グラウンド・ルール」を設ける必要があると述べています。
木内先生はこの「グラウンド・ルール」として、自分が指導する学生たちとともに、次のようなルールを設けることを導き出しました。
「自己表現」スキルを高めるルール
- 自分ひとりの考えを整理する時間をつくる
- ひとりずつ自分の考えを発表する
「協調性」スキルを高めるルール
- 人の話は最後まで聞く
- 批判だけはせず、必ず代替案を述べる
- ひやかし、やじはしない
- 反対意見を言うときは言葉づかいに気をつける
- 否定的な言葉は使わない
- 相手の意見を認め、相手の意見の良いところをあげてから、自分の意見を言う
「自己表現」を高めるためには発言することを義務づけるルールを設け、「協調性」を高めるためには相手を傷つけないよう戒めるルールを設けることが有効なのだそうです。
コミュニケーション能力
ところで、これらのルールをご覧になって「あること」に気づいた方もいるのではないでしょうか。
そうです。
どれも、普段人と会話をする上で当たり前に守るべきルールなのです。
わが子のコミュニケーション能力を高めたいと考えている人はぜひ、わが子との普段の会話でこのルールを設け、実践してみてください。
きっと「真のコミュニケーション能力」を培う一助となるはずですよ。
話し合えば「新しいアイディアが生まれる」という体験を重ねよう
木内先生は「自己表現」と「協調性」の両方を伸ばして「真のコミュニケーション能力」を培うためには、「話し合いをすることで自分の考えがより深まり、新しいアイディアが生まれる」という快体験を重ねることが大切だと述べています。
木内先生によると、そのような快体験をするためには、次の4つのルールを設けると良いのだそう。
- 前に話した人の意見について共感できること、賛成すること、反対することを話す
- 前の人の意見と同じところ、違うところをはっきりさせて意見を言う
- 話し合った内容について整理する
- 話し合いの中の意見は、よりよい結論を見つけるためのものであることを伝える
これらのルールの中でも「話し合いの中の意見は、よりよい結論を見つけるためのものであることを伝える」ということはとても大切なことです。
わが子と話し合いを行う際には、これらのルールもぜひ活用してみてください。
⇒子どものよいところを伸ばせるのは親だけ。学校や塾の先生じゃない!
子どもの「自己表現」と「協調性」まとめ
加速度的に進むこの情報化社会において、コミュニケーション能力の重要性はますます高まっていくことが推察されます。
そのため、子どものうちから「真のコミュニケーション能力」を培い、来るべき未来に備えなければなりません。
繰り返しになりますが、「自己表現」と「協調性」の両立は「真のコミュニケーション能力」を培うための重要なファクターです。
今回ご紹介したように普段の会話の中でも「自己表現」と「協調性」の両方を高められるルールを設けて実践し、「真のコミュニケーション能力」を身につけるため、親子共々日々研鑽を重ねていってくださいね。
参考文献
木内亜紀(玉川大学 教育学部 教員)「対話的な学びにおける学習指導―自己表現と協調性に焦点をあてて―」
ニックネーム:ちぃちゃんママ
0歳と3歳の母。
国立大学教育学部の大学院修了。
教育関連の学術論文を多数読破。
母親目線でわかりやすく学術論文を紹介します。
ユウちゃん