ペットと言えばネコとイヌがポピュラーですが、最近はネコの飼育数がイヌの飼育数を上回っているそうです。
今日はそんなネコの話題です。
もくじ
ネコにマタタビ
ネコの好きなものといえばマタタビですね。
ネコにマタタビという言葉があるくらい、大好物の代名詞になっています。ネコはマタタビを見つけると、マタタビをなめたり噛んだり、体を擦り付けたり、ゴロゴロ転がったりします。
この様子は古くは江戸時代からマタタビ踊りとして知られている「マタタビ反応」と呼ばれるものです。しかし、マタタビ反応が起こる理由はこれまでわかっていませんでした。
そして、その科学的な答えが岩手大学、名古屋大学、英国リバプール大学、京都大学の共同研究で明らかになりました。
実は60年以上前の研究で「マタタビラクトン」がマタタビ反応を起こす化学成分であると報告されていました。
しかし、マタタビラクトンは複数の化学成分の総称であり、どの物質がネコにマタタビ反応を起こすのかは不明でした。
また、マタタビ反応はネコ以外でもヒョウ、ライオン、などのネコ科動物でも見られます、なぜネコ科動物だけがマタタビ反応を示すのか、生物学的意義もわからないままになっていました。
ネコの「マタタビ反応」を解明する3つの研究成果
「ネコ科だけがマタタビ反応をするのはなぜだろう」。最初にこの素朴な疑問を解明したいと考えたのは、名古屋大学大学院の西川俊夫教授でした。
しかし、西川教授の専門は有機化学で、ネコを扱っていません。
そこで、ネコの行動や生理の研究に取り組む岩手大学の宮崎雅雄教授に共同研究を提案し、異分野の2人を中心とした研究がスタートしました。
さらに4つの大学の共同研究となったこの研究は、3つの大きな成果があげることとなりました。
マタタビ反応を誘発する物質はネペタラクトール
↑マタタビの葉と花、木天蓼(もくてんりょう)ともいいます。
一つ目の成果は、マタタビ反応の原因となる化学物質をつきとめたことです。
研究グループはマタタビの葉の成分を分離し、ネコに与えたところ予想外の反応が起こりました。これまで見逃されてきた「ネペタラクトール」をろ紙に塗りネコに匂わせたところ、マタタビ反応を示したのです。
さらに大阪の天王寺動物園と神戸市立王子動物園の協力のもと、ジャガー、アムールヒョウ、シベリアオオヤマネコなどのネコ科動物にネペタラクトールを嗅がせると、マタタビ反応を起こしました。
以上のことから、マタタビ反応を誘発する物質はネペタラクトールであることが明らかになったわけです。
人間の多幸感に関わる物質が関与している
二つ目の成果として、人間の多幸感に関わる神経系の一種「μオピオイド系」がネコのマタタビ反応に関与することを解明しました。
人間の多幸感は「βエンドルフィン」という脳内神経伝達物質が、μオピオイド系に作用して発生します。
μオピオイド受容体にモルヒネなどが受容されると脳内でドーパミンが放出され、多幸感や鎮痛作用が得られると考えられています。
研究グループはマタタビ反応が起こった際のネコの脳内状態を調べました。
マタタビ反応はネコが陶酔状態になっていると考えられていましたが、これまで実際にネコの脳内状態を調べた研究はありませんでした。
ネコの脳内状態を調べると言っても、人間のようにMRIで脳波を調べることができません。
そこで、マタタビ反応の前後のネコの採血をして、μオピオイド系を活性化させるβエンドルフィンの血中濃度の変化を調べました。
研究の結果、ネコのβエンドルフィンの血中濃度が増加していることがわかりました。
さらに、μオピオイド系の阻害薬であるナロキンをネコに注射した上でネペタラクトールを与えたところ、ネコのマタタビ反応は抑制されました。
以上のことから、マタタビ反応の際にネコは人間同様、μオピオイド系が活性されることで多幸感を得ていることがわかりました。
ネコ科動物はフィラリアなどを媒介する蚊から身を守っている
*出典:岩手大学
研究の三つ目の成果は、マタタビ反応の生物学的意義を明らかにしたことです。
実は、ネコと大型ネコ科動物は約1000万年前に生物種が別れて、それぞれ進化しています。
そのためマタタビ反応が両者に見られたということは、1000万年以上の前のネコ科動物の祖先がすでにマタタビ反応を獲得していたと思われます。
このように長い年月に渡り、現在のネコ科動物まで引き継がれてきたということは生物学的になにか重要な理由があるのではないかと推測されました。
研究の結果、マタタビ反応を示したネコはネペタラクトールを顔や頭に付着させていたことがわかりました。
さらに、ネペタラクトールが蚊の忌避、殺虫効果があることもわかりました。
これらのことから、マタタビ反応はネペタラクトールを顔や頭に擦り付けるために重要な行動であり、これによってネコ科動物はフィラリアなどを媒介する蚊から身を守っていることが明らかになりました。
将来的には蚊よけ剤の開発へ
「ネコはなぜマタタビに反応するのか」という素朴な疑問に惹かれた研究者が集まってスタートした基礎研究は、さまざまな応用の可能性が期待される結果となりました。
特に、蚊は日本脳炎やジカ熱などの伝染病を媒介する人類の天敵と言えます。
研究グループでは、ネペタラクトールを活用した蚊の新たな蚊よけ剤の開発を検討したいと考えています。
身近で当たり前と思われている謎の解明が、予想外の成果を生んだという面白さ。
科学誌「サイエンス・アドバンシズ」に研究が発表されると、国内外から取材が殺到しているそうです。
みなさんも自由研究で素朴な疑問について深く研究してみると面白い成果が見つかるかもしれません。
参考:
*岩手大学:https://www.iwate-u.ac.jp/cat-research/2021/01/003871.html#
*京都大学:https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2021-01-21
*サイエンスポータル:https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/clip/20210128_g01/
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30代大学教員 一児の父
京都大学大学院修了 博士(工学)