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古代人のゲノム解析と人類の進化、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人

古代人のゲノムと人類進化

2022年のノーベル生理学・医学賞は「絶滅した人類のゲノムと人類の進化の解明」に対する功績で、スウェーデン出身のスバンテ・ペーボ教授に授与されました。

ノーベル生理学・医学賞はiPS細胞の山中伸弥博士やがん免疫治療の本庶佑博士など、医学や人体に関する発見に贈られることが多い賞です。しかし、今年は人類の進化の研究者が選ばれるという、珍しい受賞となりました。そんな、ペーボ博士の研究について紹介します。

スバンテ・ペーボ 博士

1955年4月20日生まれ(64歳 スウェーデン)
マックス・プランク進化人類学研究所 教授

<授賞対象分野>
「生命科学」

<授賞業績>
古代人ゲノム解読による古人類学への先駆的貢献

<研究概要>
私たちはどこから来たのか……。
「現生人類(ヒト)の誕生と進化」の解明は、古人類学の大きな課題の一つです。古人類学では、発掘された骨や歯の化石の形態をもとに、その進化や分類が論じられてきましたが、1980年代の中頃に、スバンテ・ペーボ博士は、DNAを抽出して解析する「遺伝学的手法」を取り入れ、以来この方法で現生人類の進化の核心に迫る成果を次々にあげてきました。
特に、ネアンデルタール人のDNA解析の結果から、現生人類の祖先とネアンデルタール人が交雑していたことを明らかにしました。また、ロシアのデニソワ洞窟から発掘された骨の化石のDNAからは、これまで知られていなかったデニソワ人の存在を明らかにしました。
博士は、古代人DNAの解析を通して、現生人類とはなにものかという根源的な問題に新たな光を当てたのです。

https://www.japanprize.jp/press_releases20200204.html

* ノーベル財団
https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/2022/press-release/

*スバンテ・ペーボ氏は沖縄科学技術大学院大学の教授でもあります。
https://www.oist.jp/ja/news-center/press-releases/37665

DNAで体の設計図を読み解く

ペーボ博士の研究は先史時代の人類のDNAを解析することで、絶滅した人類と現代人の関係を明らかにするというものです。

生物には体の設計図と言える遺伝子があります。その設計図の文字にあたるのがDNAです。人間のDNAは二重らせんの鎖状で、細胞の中に折りたたまれています。一人の人間のDNAの全長はなんと約400億キロメートルにもなります。

ゲノムという言葉もよく耳にしますが、遺伝子の最小限のセットを指します。人間のゲノム(ヒトゲノム)の解析が1991年に始まりましたが、約10年間ですべての配列が明らかになりました。

ヒトゲノムの解析ができると、他の生物との進化上の関係がわかるようになります。たとえば、人間とチンパンジーのゲノムの差は1~2%しかないとされています。

ホモ・サピエンスとネアンデルタール人

人間は約700万年前にチンパンジーの仲間から進化したと考えられています。その後、さまざまな人類が現れ、絶滅していきました。

現代人の祖先は、約20万年前にアフリカで生まれたホモ・サピエンスと呼ばれる人類です。ホモ・サピエンスの前には、ネアンデルタール人がいました。

ネアンデルタール人は約40万年に誕生し、約4万年前に絶滅したとされています。ホモ・サピエンスより大柄でしたが、集団行動が得意でなかったため生き残れなかったと考えられています。

しかし、正確な理由はわかっていません。ホモ・サピエンスとネアンデルタール人は同じ時期に生存していたこともありますが、交雑することはなかったと思われていました。

古代人のDNA解析

昔の人類を調べるためには、遺跡から人骨や土器などを発掘します。考古学と言われる研究です。ペーボ博士は13歳の時に母親とエジプト旅行に行き、ミイラに興味を持ちました。

古代エジプトの勉強のために大学に入りましたが、変化の少ない学問に興味を失い、医学の研究者を目指すことにしました。

分子生物学の研究をする中でDNAの解析を行っていましたが、ある日、ミイラのDNAを調べられないかと思いつきました。そして、その実験を密かに試み、成功しました。ペーボ博士はDNAの解析という方法で、再び古代人の研究に戻ることになりました。

ペーボ博士が異なる分野の研究を行ったから、画期的なアプローチ方法を考え出せたのです。一つの道を究めることも大切ですが、研究分野を変えたから大発見が生まれることもあるのです。

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ネアンデルタール人のDNA解析に成功

DNAの解析はシーケンサーという装置を使って行われますが、先史時代の人類の解析は簡単ではありません。DNAは死後すぐに分解されはじめ、数百年たつとバラバラの断片になってしまうためです。

また、発掘する際に現代の微生物や人間のDNAが混入してしまいます。新しい発見だと思っても、採集時に付着した現代人のDNAだったこともあります。

そのため、ネアンデルタール人のDNAが残っていたとしても、全体の配列を読むことは不可能と思われていました。しかし、ペーボ博士の粘り強い努力の結果、DNAが太古のものであると見極める方法を確立し、ネアンデルタール人のDNAすべての解析に成功したのです。

この結果、驚くことにホモ・サピエンスとネアンデルタール人が交雑したことが明らかになりました。つまり、現代人はネアンデルタール人の遺伝子も受け継いでいることになります。ネアンデルタール人は完全に絶滅したのではなく、私たちの中で生きていたのです。

さらに、ペーボ博士はロシアで見つかった小指の骨のDNAを解析し、デニソワ人という新たな人類の発見にも成功しました。デニソワ人のDNAも現代人に受け継がれていることがわかっています。

ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の出会い

私たち現代人の祖先であるホモ・サピエンスは約20万年前にアフリカで誕生しましたが、その後、約6~7万年前にアフリカを出て、世界中に移動していきました。

アジア人とヨーロッパ人にネアンデルタール人のDNAを受け継いでいる人が多いことから、アフリカを出たホモ・サピエンスがユーラシア大陸に渡る前に、中東にいたネアンデルタール人と交雑したと考えられます。

その後、ホモ・サピエンスは交雑をくり返しながら、世界中に広がっていきました。日本には約4万年前にたどりついています。

この事実を知ると、人種や民族の違いはささいな差でしかなく、純血というものが意味のないことがわかります。人種や民族の違いによる争いはおろかなことと思えてきますね。

古代人の現代への影響

絶滅した人類の遺伝子は、現代人の健康に影響を与えています。ネアンデルタール人のDNAを多く持っていると、新型コロナの重症化リスクを下げることがわかっています。これは、ネアンデルタール人の持っていた免疫の遺伝子の働きです。

チベット人は高地などの低酸素に順応しやすい遺伝子を持っていますが、デニソワ人から受け継いだものと思われます。何万年も前に絶滅した古代人の遺伝子が、現代人に影響しているとは驚きですね。

新たな発見への期待

DNA解析による発見は始まったばかりです。ネアンデルタール人が絶滅した謎や、新たに絶滅した人類が見つかるかもしれません。また、ペーボ博士の発見は考古学だけでなく、歴史学、言語学、感染症研究にもインパクトを与えました。

これは、現代人が何者かを明らかにすることにつながります。ペーボ博士の研究は、たんにネアンデルタール人のDNAを解明しただけでなく、人類の探究につながる研究方法を生み出したことが評価されたとも言えるのです。

【参考文献】
*スヴァンテ・ペーボ著、野中香方子訳「ネアンデルタール人は私たちと交配した」(2015年、文藝春秋)
*篠田謙一著「人類の起源-古代DNAが語るホモ・サピエンスの大いなる旅」(2022年、中央公論新社)

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この記事を書いたのは

大学の先生

あっくんパパ
2児の父
京都大学大学院修了
博士(工学)