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サイボーグ昆虫とは?小さなロボットじゃないんです。

昆虫サイボーグ

昆虫は好きですか?チョウやテントウムシは好きだけど、ガやハエは苦手でしょうか?

それでは、ゴキブリはどうでしょう?名前を聞くのも嫌ですか?

今回は、昆虫が驚くかたちで人の役にたっているという話です。

昆虫は地球でもっとも強い生物?

地球上の生命は約40億年前に誕生しました。その後、様々に進化し、今では地球上に180万種類もの生物がいます。

そして、その半数以上が昆虫なのです。

昆虫は多様な環境に適応できる能力を持つため、繁栄することができました。昆虫は人とは比べられないほど優れた感覚能力を持っています。

ハチは人の目では見えない紫外線を検知し、曇り空でも太陽の位置をとらえます。

ガは超音波を検知し、天敵のコウモリから逃げることができます。

このような昆虫の能力を応用しようとする研究があります。そして、昆虫と電子部品をつなぎ、サイボーグ昆虫をつくる研究が行われています。

匂いを探索するサイボーグ昆虫

東京大学先端科学技術研究センター・神﨑亮平教授は、昆虫の中でもカイコガの嗅覚に着目しました。

カイコガのオスの嗅覚センサは、メスが発するフェロモンだけに反応します。その嗅覚センサを他の匂いに反応するように変えると、様々な活用方法が考えられます。

たとえば麻薬だけに反応すると、麻薬を発見する昆虫になります。そして、メスのフェロモン以外の匂いに反応させる試みは、遺伝子工学的に成功しました。

匂いの探知というと警察犬がいますが、イヌには匂いを覚えさせる必要があります。昆虫の遺伝子の匂いセンサを変化させると、後天的に学習させる必要はなくなります。

しかし、これだけでは麻薬を発見する昆虫にはなりません。匂いの発生源にたどり着く必要があります。

実はこれが難問なのです。匂いは空気で運ばれますが、風の流れは複雑で刻々と変わります。研究の結果、カイコガは直進やジグザグターンなど限られた運動だけで、匂い源の探索を行っていることがわかりました。

神﨑教授はそのことを確かめるために、カイコガの頭部と胸部の一部だけを、脳からの信号で動く二輪歩行ロボットに取りつけた実験を行いました。

まさにサイボーグ昆虫の誕生です。その結果、匂いに反応した脳からの信号で、二輪歩行ロボットは匂い源にたどり着くことに成功しました。

昆虫の嗅覚を利用し、特定の匂いの発生源を探索するサイボーグ昆虫ができると、麻薬検知以外に、ガス漏れの位置の特定や、食品を海外からコンテナで運ぶ際のカビの発生の発見など、様々な用途に応用することが考えられます。

マダガスカルゴキブリのサイボーグ昆虫

2022年9月、理化学研究所は早稲田大学、シンガポール南洋理工大学との共同研究で、ゴキブリのサイボーグ昆虫を開発したと発表しました。

ゴキブリと言っても、マダガスカル島の木材に生息するマダガスカルゴキブリです。体長6cm大で、羽がなく飛ぶことはできません。

この研究ではマダガスカルゴキブリの胸部の背中側に電子デバイス、腹部の背中側に太陽電池モジュールが取りつけられました。

そして、マダガスカルゴキブリの移動を制御するために、尾葉と呼ばれる感覚器官に信号を入力する電極を接続します。

太陽電池モジュールは4マイクロメートルと超薄型で、さらにマダガスカルゴキブリの動きを妨げない構造になっています。

右側の尾葉に取りつけた電極に無線で電流を流すと、マダガスカルゴキブリはその刺激で右側に曲がることが確認できました。

この開発によって、マダガスカルゴキブリの寿命が続く限り、バッテリー切れを心配することなく、操作することが可能になりました。

サイボーグ昆虫の目的

何のために、マダガスカルゴキブリのサイボーグ昆虫を開発しようとしたのでしょうか?

その理由の一つが2011年の東日本大震災です。

大震災で建物が倒壊すると、がれきの下の様子がまったくわからなくなります。救急隊員は勘と経験で下敷きになった人を探すしかありません。

東日本大震災では救出に時間がかかり、間に合わず亡くなる方が多数いらっしゃいました。

救急隊員の話を聞いたシンガポール南洋理工大学の佐藤裕崇教授は、がれきの隙間をかいくぐり、長時間動くサイボーグ昆虫の必要性を感じたそうです。がれきの下は狭いため歩行する昆虫が良いと考えました。

そして、身体のサイズ、タフさ、飛ばないという特徴からマダガスカルゴキブリにたどり着きました。

マダガスカルゴキブリのサイボーグ昆虫にカメラなどを取りつければ、人間の操作でがれきの下にいる人を探すことができるのです。

生きた昆虫をサイボーグにするより、昆虫型のロボットをつくれば良いと思われた方もいるかもしれません。

しかし、昆虫のように頑丈で自由に動き回る超小型ロボットの開発はまだまだ未来の話なのです。また、超小型ロボットでも多くの電気を消費するため、長時間の稼働はできません。

ここまでの話でサイボーグ昆虫をイメージできたでしょうか?カイコガとマダガスカルゴキブリのサイボーグ昆虫は動画で公開されていますので、ぜひインターネットで検索していただければと思います。

ちなみに、アメリカでは神経科学や電子工学を学習するツールとして、ゴキブリのサイボーグキットが99ドル(なんとゴキブリは別売だそう)で販売されているそうです。

バックヤードブレインという会社の「The RoboRoach」です。太陽電池モジュールはありませんが、リモコンでゴキブリを左右に動かすことができます。

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サイボーグ昆虫への賛否

サイボーグ昆虫をどのように感じたでしょうか。私はサイボーグ昆虫の動画を見た時、昆虫を少々気の毒に感じました。

日本科学館では来場者にサイボーグ昆虫の研究についてアンケートを取っています。

回答によると55%の人が、「虫がかわいそう」「プライバシー侵害の使い方をされる」などの理由で反対しています。

一方、賛成の意見は「超小型ロボットができるまでは最適」「悪用にこだわって科学の進歩を止めることは、研究者を育てる環境をつぶす」となっています。

サイボーグ昆虫を見た率直な感想だと思います。しかし、人類は他の生物の犠牲の上で、成り立っています。

医学の研究や、医薬品の開発に動物実験は欠かせません。ほとんどの人が動物や魚を食べて生命を維持しています。

環境負荷が少ないタンパク質として、昆虫食の開発も行われています。昆虫の利用について議論が進めた上で、サイボーグ昆虫が実用化されることに期待したいと思います。

昆虫の研究は人間の解明につながる

サイボーグ昆虫の研究には実用化以外の成果も期待されます。

人の脳は1000億個のニューロンが複雑につながっています。一方、昆虫のニューロンは10万個から100万個程度です。

昆虫は脳の構造が比較的単純だから解明しやすいと言えます。サイボーグ昆虫の研究が基盤となって、より複雑な脳を持つ生物の解明につながっていきます。

昆虫を苦手な方も、昆虫の研究の進展には注目していただきたいと思います。

【参考文献】
(1)神﨑亮平「サイボーグ昆虫,フェロモンを追う 」(岩波書店,2014年)
(2)理化学研究所プレスリリース「再充電可能なサイボーグ昆虫
-昆虫の基本動作を損なわない超薄型有機太陽電池の実装-」
https://www.riken.jp/press/2022/20220905_2/index.html
(3)Backyard Brains “The RoboRoach Bundle”
https://backyardbrains.com/products/roboroach

この記事を書いたのは

大学の先生

あっくんパパ

30代 博士(工学)

京都大学大学院修了