2021年6月、理化学研究所と富士通が開発したスーパーコンピューター(通称スパコン)の「富岳」がTOP500、HPCG(High Performance Conjugate Gradient)、HPL-AI、Graph500というスパコンのランキングにおいて3期連続で世界1位を獲得しました。
アメリカと中国のスパコン2強体制に対して、日本の富岳が大きな風穴をあけたと言われています。
この記事では『富岳の何がすごいの?』『スパコン開発は世界1位でないとダメなの』について小学生にもわかりやすく工学博士が解説いたします。
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スーパーコンピューター(スパコン)って?
そもそもスーパーコンピューター(スパコン)とはなんでしょうか?
実はスパコンの本質は皆さんが普段使われているiPhoneなどのスマホや、パソコンとほとんど変わりません。
スパコンとこれらのパソコンの大きな違いは、パソコンの性能を表すCPU(いわゆるパソコンの脳味噌である部分)がとてつもない性能であるという点です。
例えば、最近のパソコンに搭載されているCPUはおよそ300GFlopsという性能を持っています。
Flopsとは1秒間に浮動小数点演算が何回できるかの指標となります。
少し難しいと感じるかもしれませんが、簡単にいうと、1秒間に何回足し算ができるかという指標です。
パソコンの300GFlopsというのは、1秒間に3000億回計算できるということです。
では、「スーパーコンピューター富岳」で用いられているスパコンの場合はどれくらい計算できるのでしょうか?
なんと1秒間に1000兆回の計算ができるという記録を持っています。
この計算が早ければ早いほど複雑なシミュレーションができるので、最先端の科学研究に非常に役立ちます。
例えば、津波や地震の伝わり方を調べたり、あるウイルスに効く薬を調べたりする際に膨大な計算が必要になります。
こういったところでスパコンは利用されており、産業の基礎を作っていると言っても過言ではありません。
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富岳はどんな性能で何ができるの?
では、「富岳」は一体何がすごいのでしょうか?
「富岳」は理化学研究所によって作られたスパコンで、兵庫県神戸市ポートアイランドに設置されています。
「富岳」がすごいのはスパコンの性能を測るランキングのうち、「HPCG」が2位と約4.6倍、「HPL―AI」が同2.6倍と大差をつけて1位を獲得している点です。
現在、スパコンは国の科学技術力の象徴的な存在とも言われており、世界の開発競争は今やアメリカと中国が覇権を争う構図が続いています。
そんな中での世界1位と言うのは非常に価値があり非常にすごいことです。
米中は1-2年後には富岳の計算速度を超えるスパコンを投入する見通しであるため、残念ながら近いうちに世界1位の座を奪還されることは間違いないですが、それでも世界1位をとる技術力があること自体に非常に価値があると言えます。
理化学研究所公式サイト:「スーパーコンピューター富岳」につて
世界1位!!2位じゃダメなんですか?
ちなみに「富岳」の前身は「京」というスパコンです。
この「京」は開発時に蓮舫参議院議員に「2位じゃダメなんでしょうか」という質疑応答を受けたことが記憶にある方もおられるかもしれません。
当時の質疑応答では、「一般人が巨額の税金投入に納得できる説明がない」、「開発が自己目的化しており、どのような成果を出すのか明確にできなければ国費投入は無理」などと酷評され、世間でも大きな話題に昇ったことはご存知の方もいるかもしれません。
なぜ世界1位ではなく、2位ではダメなのでしょうか?
結論から言うと、1位を目指して開発した結果、2位であったとしても問題ないということを理研の松岡聡計算科学研究センター長が語っています。
実は前身の「京」はこの騒動もあり世界一を強く意識して作られました。
しかしながら、その結果、ユーザーに使いづらい仕様になってしまいあまり利用が広がらなかったという経緯があります。
せっかく大金を投じて開発したのに、人々に使われないようでは意味がありませんよね。
さらに当時は主要企業が撤退したり、「京」開発時には大きな混乱があったようです。
「富岳」ではこの点を反省し、「使いやすいオンリーワン」のスパコンを目指しました。
松岡聡計算科学研究センター長によると、富岳の最も重要な点はこの点にあり、「最高の使いやすさを達成して、結果として2位なら仕方がない」とコメントしています。
つまり、あくまでユーザーを最優先にして開発するという点が「京」と大きく異なります。
すでに、新型コロナウイルスに関するシミュレーションなどで一定の成果を「富岳」は上げているため、今後も「富岳」の活躍は期待できそうです。
近々、日本はアメリカや中国にスパコン世界1位の座を奪われるかもしれないとはいえ、日本の科学技術の発展が止まったわけではありません。
今小学生のあなたが大人になる頃には日本はまた1位に返り咲いているかもしれませんね。
もしかすると引き続きプログラミングを習うことで、皆さん自身がスパコンの開発に携わり、日本の科学技術の発展を牽引する存在になっているかも!!
⇒理化学研究所神戸キャンパス公式サイト 施設を見学したり体験することができるイベントもやっているよ。
【追記】2023.11.14
2023年に富岳は世界の計算速度ランキング「TOP500」第4位になりました。前回の2位から順位を下げました。
「TOP500」とは計算能力を総合的に示すランキング、年2回発表します。
ちなみに富岳はコンピューターでシミュレーション(模擬実験)する際の処理性能を主に測る「HPCG(High Performance Conjugate Gradient)」と道路網などネットワークで表現される現象やビッグデータの解析性能を示す「Graph500」は8期連続の1位です。
理研計算科学研究センター(神戸市)の松岡聡センター長のコメント「長期間にわたって世界トップクラスの性能が維持できているのは、継続的な研究開発で性能向上を図ってきた成果」
富岳は毎秒44京2千兆回の計算が可能。1位は、米オークリッジ国立研究所の「フロンティア」になります。
【世界の計算速度ランキング「TOP500」】
名称 | 計算速度 (京回/秒) | |
---|---|---|
1位 | フロンティア(アメリカ) | 119.4 |
2位 | オーロラ(アメリカ) | 58.5 |
3位 | イーグル(アメリカ) | 56.1 |
4位 | 富岳(日本) | 44.2 |
5位 | ルミ(フィンランド) | 37.9 |
*理化学研究所「富岳」世界ランキングの結果と理化学研究所の今後の取り組みについて -世界トップレベルを引き続き維持-(2023年11月)
https://www.r-ccs.riken.jp/outreach/topics/20231114-1/
*オークリッジ国立研究所公式サイト
https://www.ornl.gov
30代大学教員 アメリカ在住
京都大学大学院修了 博士(工学)