残念ながら今年のノーベル賞に、日本人は選ばれませんでした。しかし、ノーベル賞にふさわしい受賞内容が選出されました。その一つがノーベル物理学賞の量子もつれです。
受賞したのは、アラン・アスペ教授、ジョン・クラウザー博士、アントン・ツァイリンガー教授の3人です。
ニュースでは「量子もつれ」というのは不思議な現象と紹介されました。いったい何が不思議なんでしょう?科学を好きな子どもにもわかるように説明したいと思います。
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ミクロの世界の不思議な現象
量子もつれがノーベル物理学賞を受賞した背景には、量子論というものへの期待があります。量子もつれを知るために、まずは量子論について知ることから始めましょう。
私たちの目に見える大きさをマクロと言います。そして、目に見えない小さなものをミクロと言います。あらゆるマクロな物質を小さくすると、分子に分けられます。
分子はさらに原子に分けられます。原子は1ミリの1000万分の1くらいの大きさです。原子をさらに分割すると、最後には素粒子と呼ばれる最小のものになります。
素粒子から分子くらいまでのミクロの世界の現象を説明するのが、量子論という物理学です。そして、ミクロの世界ではマクロでは考えられないような不思議な現象がおこっているのです。
波であり粒子である
一つめの不思議はミクロにおける物質の性質です。光は波なのか、粒(粒子)なのか?光は波のように広がることも、粒が飛ぶこともイメージできますね。長い間、科学者が議論してきました。
そして、その答えは両方なのです。ミクロな物質は波であると同時に粒子なのです。そう言われても、よくわからないですね。
波というのは水面を想像してください。水面の波は振動しながら広がっていきます。一方、粒子というのは粒ですからサッカーボールのように定まった1点に存在し、力を加えるとまっすぐに進んでいきます。二つはまったく違った性質です。
マクロの世界では、波であると同時に粒子であるものをイメージすることができません。しかし、ミクロの世界では、波であると同時に粒子であるというのが基本原理なのです。
観測しないと存在しない
二つめの不思議は、ミクロな世界では一つの物体が同時に複数の場所に存在し、観測すると一つに決まるというものです。また、奇妙な話ですね。
たとえば、体育館にサッカーボールが一つあるとします。マクロの世界では体育館の中を見ても見なくても、サッカーボールは一つの位置に置かれています。
しかし、ミクロの世界ではサッカーボールは体育館の中に波としてさまざまなところに存在し、体育館の中をのぞく(観測する)とサッカーボールの位置が決まるのです。
本当は、ミクロの世界の現象をマクロの世界で例えることはできないのですが、こんなことが起こっているのがミクロの世界なのです。
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「量子もつれ」とは?
さらに不思議な現象があります。それが量子もつれなのです。量子もつれというのは、二つの粒子がペアを組んでいるようにふるまう現象です。
電子という粒子は上向きと下向きの2種類があります。そして、互いに上向きと下向きのペアをつくったとすると、ペアがどんなに離れていても、片方を観察して方向が上向きと決まったとたんに、もう片方は下向きに決まるという現象が起こります。
まるでテレパシーのような話ですね。このような関係性を量子もつれと言います。
今まで話した3つ以外にも、ミクロの世界には不思議な現象があることがわかっています。こんな奇妙ことが起こるなんて信じられない。そう思った人も多いと思います。
実は、天才アインシュタインも量子論を疑いの目で見ていました。私たちがにわかに信じられないのは当然のことですね。
「量子もつれ」の証明
量子もつれにはアインシュタインだけでなく、多くの科学者が疑問を抱いていました。そして、その中の一人がベルという物理学者です。ベルは量子もつれの存在を実験で検証できる不等式を考え出しました。
これは実験で不等式を越える値が出れば量子もつれの存在が実証されるという画期的なものでした。
そして、この不等式を破る結果を実験で導きだし、量子もつれの存在を証明したのが、今年のノーベル物理学賞を受賞した3人なのです。
量子もつれを利用すると、遠く離れた地点を瞬時につなぐことができます。中国の研究グループは人工衛星と地上との間で量子もつれを利用した情報通信に成功したと発表しています。
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量子論は身近な世界で役立っている
ミクロの世界の現象が少しずつわかりつつあります。そして、量子論によって今まで説明できなかった物理現象が説明できるようになってきました。
ただし、その現象が起こる理由は正確には解明されていません。しかし、量子論はすでに身近な日常生活で役立っているのです。
半導体やレーザーには量子論が応用されています。世界中で研究が進められている量子コンピュータや量子情報通信は、近い将来、実用化されるでしょう。量子論が宇宙の始まりや、ブラックホールの謎を解く日が来るかもしれません。
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常識を外れた発想が謎を解く
ミクロの世界では、日常では想像できない不思議な現象が起こっている。そのことは知ってもらえたと思います。ミクロの世界の現象を解き明かすには、SFのような突飛な発想が必要となります。
物の現象を明らかにする物理学は計算式を使う難しい研究と思われていますが、常識から離れた新しいことを考える面白い学問でもあるのです。
ノーベル賞を受賞したジョン・クラウザー博士は「物理学はとても楽しく、やりがいがある。私は金持ちにはなれなかったが、誰も知らない発見をすることで大きな満足を得てきた」と語っています。
ミクロな世界に興味を持ったなら、図書館で少し詳しく解説した本を手に取ってみてください。あなたの柔らかい思考で、世界の謎を解明する日が来るかもしれません。
【参考文献】
(1)吉田伸夫・監修「マンガ+図解でよくわかる 最速最短! 量子論」(2022年,ワン・パブリッシング)
(2)ニュートン編集部・編著「14歳からのニュートン超絵解本 量子論」(2022年,ニュートンプレス)
アラン・アスペ教授 Alain Aspect
https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2022/aspect/facts/
ジョンクラウザー博士 John Clauser
https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2022/clauser/facts/
アントン・ツァイリンガー教授 Anton Zeilinger
https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2022/zeilinger/facts/
30代
あっ君パパ
京都大学大学院修了
博士(工学)
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