学校教育法の改正(2019年)により、小・中学校などでは紙の教科書と併用して、タブレット端末の使用がはじまりました。さらに、新型コロナ禍でリモート学習が必要となり、タブレット学習は一気に普及しています。
文部科学省によると、全国のほとんどの小中学校にインターネット環境とタブレット端末が行き届いたようです。
わが子が自宅にタブレット端末を持ち帰り、宿題をする姿をみているママパパも多いのではないでしょうか。また、民間の学習塾や通信教育でも、さまざまなタブレット学習が提供されており、一気に身近に感じるようになりました。
今回は、そんなタブレット学習のメリットとデメリットを、保護者の観点と、論文の観点から紹介したいと思います。
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もくじ
タブレット学習のメリット・効果
保護者の方々はタブレット学習にどんなメリットを感じているのでしょうか。
保護者目線
- 動画や音声で学習できる
- ゲーム感覚で楽しみながら学習できる
- わからないことはインターネットを使って、その場で調べることができる
- どこでも学習できるので、学校を欠席しても授業を受けられる
- 保護者のスマホと連携できれば、学習の進捗などがわかる
このように紙で読んでもわからないことが、動画で見るとわかることがあります。立方体や天体の動きなどは、動画で学んだ方が理解しやすそうですね。
また、タブレット学習の教材によっては、ゲームをクリアするように学習を進めることができるので、勉強嫌いの子どもでも飽きずに学習を続けられるようです。
これ以外にも、学校で全員に配布することで家庭の経済格差の影響が減る、タブレット端末の使い方がわからない時にパパが頼られるようになった、などの意見もあるようです。
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研究論文
理解を深めるためにタブレット学習が良い
早稲田大学の渡邉文枝博士は、タブレット学習に効果的な教材の研究を行っています。
その結果によると、理解を深める学習にはアニメーション(動画)が効果的であるものの、単語などの記憶学習には画像のみを提示する方法が効果的であることがわかりました。
単純な記憶のためには、情報量をシンプルにした方が効果はあるようです。
動画や音声を使えば、何でも学習成果が上がるということではないのですね。タブレット学習を効果的に行うには、学習内容を選ぶ必要があると言えるでしょう。
*早稲田大学大学院人間科学研究科・渡邉文枝、早稲田大学人間科学学術院・向後千春「タブレット端末における教材の提示方法が学習に及ぼす影響」(日本教育工学会論文誌36,2012年)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjet/36/Suppl./36_KJ00008609789/_article/-char/ja/
ゲーム感覚で楽しく学べる
論理的に考える問題にタブレット学習が良い
また、中日本自動車短期大学・及川浩和教授は中学校の授業におけるタブレット学習の効果を調査しています。
その結果、基礎的な学習では紙とタブレット端末による学習成果の差はないが、記述問題のように論理的に考える問題ではタブレット学習の効果があったとしています。
その理由は、タブレット学習ではお互いの端末を覗き込んだり、相談したりする行動が大幅に増えたため、と結論付けられています。
これは集団授業におけるタブレット学習ならではの思わぬメリットと言えるかもしれません。
*中日本自動車短期大学・及川浩和、岐阜大学・加藤直樹、岐阜女子大学・横山隆光「タブレットPCに対する特性認識が学習成果に与える影響」(教育情報研究・第31巻第1号,2015年)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsei/31/1/31_KJ00010051064/_article/-char/ja/
タブレット学習のデメリット・弊害
一方でタブレット学習にデメリットと聞いて真っ先に思い浮かぶのは「視力が悪くなる」ですが、それだけなのでしょうか?
実際に子供がタブレット学習しているママパパの意見と研究論文を調べてみました。
保護者目線
- 勉強に関係ないアプリで遊んでしまう
- 熟考しないので、深い理解ができない
- 学習内容が記憶に残りにくい
- 書いて覚えることが少ない
- 視力や健康への悪影響がある
- 充電忘れや故障すると、学習できなくなる
- とにかく反対
たしかに、大人でもパソコンで仕事をしている時に、関係のないネット検索やメールチェックをして仕事に集中できなくなることはありますね。
また、ゲーム感覚で操作していると、深く考えることなく回答を選んでしまうこともありそうです。そうすると、深く理解したり、知識を定着させることなく、学習を進めてしまうことが想定されます。
研究論文
タブレット学習をしていない大人からすると、書いたり読んだりすることで覚えやすくなるという経験を持った方もおられるのではないでしょうか。
このように、タブレット学習の場合、記述式の回答が少なくなってしまうため、書くことが減る点は、デメリットと言えるでしょう。
「紙に書くこと」と「タブレット端末に書くこと」による、学習効果の差を調べた調査があります。
この調査では、高校生に朗読文を聞き取りながらノートまとめ作業を行ってもらい、簡易型脳波計を使って前頭部シータ帯域活動を調べました。
前頭部シータ帯域は脳に認知負荷がかかると高くなることが知られています。その結果、紙のノートに書くよりも、タブレット端末に書く際に前頭部シータ帯域が高くなることがわかりました。
タブレット端末に文字を書く時には、正しく変換されるかを確かめながら書くことで、認知負荷が高まったと考えられます。
学習中に文字の変換に注意を向けてしまうことから、長時間のタブレット学習では理解度、記憶、疲労などにネガティブな影響を及ぼす可能性があることが考えられます。
*株式会社センタン・波多野文ほか、コクヨS&T株式会社・田中裕子ほか、広島大学大学院総合科学研究科・入戸野宏「紙ノートとタブレット端末の使用が学習時の認知負荷に及ぼす影響-脳波を用いた検討-」(電子情報通信学会技術研究報告115巻185号,2015年)https://www.kokuyo-st.co.jp/info/pdf/20150826_papernotebook_vs_tablet.pdf
ゲーム感覚で楽しく学べる
子どもの脳に与える健康上の影響
このようなタブレット学習の健康への影響を考えるには、2021年にベストセラーとなった「スマホ脳」という本が参考になります。
著者である精神科医のアンデシュ・ハンセン氏は、タブレット端末やスマホの長時間使用による幼児の脳の発達の遅れや、子どもの睡眠障害、うつ症状への懸念を述べています。
これらの指摘は日本とアメリカの小児科学会でも警鐘されています。タブレット学習では視力だけでなく、精神的な影響も考慮する必要がありそうです。
*日本小児科学会 https://www.jpeds.or.jp/
*アメリカ小児科学会 https://www.aap.org/
学校で実際に起こっていること
実際の教育現場では、タブレット学習を導入したことで何が起こっているのでしょうか。
一般財団法人LINEみらい財団は、この一年間に小中学校で起こっているネットトラブルの調査を行っています。(4)
小学校では18.5%、中学校では39.3%の学級でネットトラブルが発生したことがわかりました。小学校におけるトラブルの内容は、長時間利用による健康上の問題(47.5%)、コミュニケーショントラブル(43.3%)、不適切サイト(有害情報)の閲覧(40.8%)が上位になっています。
コミュニケーショントラブルは、情報を共有して授業を行う学校ならではのトラブルです。アプリのチャット機能を使った悪口の書き込みから、深刻な事件につながったケースもあります。
これらはタブレット学習というより、インターネットを使用する上での重大な課題となっています。学校だけでなく、家庭、社会のあらゆる場面で、インターネットのモラルを教える必要があります。
*一般財団法人LINEみらい財団「一人一台端末環境におけるICT活用と情報モラル教育の実践に関する調査」(2021年)https://line-mirai.org/ja/report/detail/5
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タブレット学習と紙に書くことを使い分けする
タブレット学習には思った以上にデメリットもあるようです。しかし、デジタル化が様々な課題を解決することも間違いありません。
たとえば、知的な問題はないにも関わらず読み書きが困難な、発達性ディスレクシアの子どもにとっては、タブレット学習はなくてはならないツールです。
「スマホ脳」の著者は、「人間がテクノロジーに順応するのではなく、テクノロジーが私たちに順応すべきなのだ」と語っています。
今後、タブレット学習の研究が深化し、人間に適した教材の開発が進むことを期待したいものです。それまでは、タブレット学習のメリット・デメリットを親が理解して、子供には「タブレット学習」と「紙による学習」を上手く使い分けてあげましょう。
ゲーム感覚で楽しく学べる
30代
あっ君パパ
京都大学大学院修了
博士(工学)
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