イギリスの高等教育専門誌「THE(Times Higher Education)」は2019年9月12日に、14回目となる2020年の「THE世界大学ランキングを発表しました。
トップは前回と同じオックスフォード大学、2位はカリフォルニア工科大学、3位はケンブリッジ大学で、1位、3位をイギリス勢が独占しています。
世界のベスト10を国別に見ますとアメリカ7校、イギリス3校となっています。
日本からは100位以内に東京大学と京都大学がランクインしています。
東京大学は前年より6つアップの36位、京都大学は昨年と同じ65位となりました。
このランキングを見ると、ベスト10のなかにアメリカの大学が7校もランクインしており、アメリカの大学の教育力の高さが目立ちます。
それに比べ、東京大学と京都大学はやっと100位以内にランクインしていますが、アジアのトップは25位のシンガポール国立大学で、中国の精華大学と北京大学はそれぞれ23位と24位にランクインしています。
香港も健闘して、香港大学が35位、香港科技大学47位となっています。
アジアの中で各国大学のレベルを概観してみますと、日本の大学は、シンガポールや中国勢(香港を含む)よりも低いレベルの順位にあります。
近年では日本の大学レベルが相対的に低下しているのではないかと言われています。
今後は世界で活躍するためには日本に閉じこもるのではなく、国外に目を転じて大学は海外へ、という選択肢が増えてくるかもしれません。
そこで今回はアメリカの大学で働いている私が考えるアメリカと日本の大学の違いを見て行きたいと思います。
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もくじ
アメリカの大学と日本の大学、入試制度の違い
アメリカの大学入学をめざす人にとっての最初で最大の関心事は、「アメリカの入学合否システム」にあるでしょう。
日本でおなじみの学力診断に基づく入学試験とは違う、アメリカの入試制度とはいったいどのようなものでしょうか。
アメリカの入試では学力診断だけでなく、合計で6つの要素を元に合否を判断します。
これは「The Significant Six」と呼ばれ、一発限りの試験ではなく一人ひとりの出願者をさまざまな観点から総合的に評価して合否を判断します。
1. 高校の成績
これは日本の内申点と同様に高校のテストの成績がどうだったか、などを元に点数化されます。
2. エッセイ
アメリカの入学試験ではこのエッセイが最も高い配分を占めます。平均500語の英単語を用いて、自分のパーソナリティ、経験、価値観、自分のアピールをまとめます。自分のユニークな点をどれだけ効果的に描写するかが重要視されます。
3. 推薦状
推薦状も合否決定に大きな影響を持っています。特に、私立大学、エリート大学ほど、推薦状を重視します。ほとんどの大学が2通の推薦状を求めるようです。
4. 課外活動
授業以外の活動成果も評価の対象になります。ディベートやスピーチ、アートや演劇活動、そしてリーダーシップや責任感などが問われます。
5. 学力テスト
日本にも大学入試センター試験というものがありますが、アメリカでは民間企業・団体によって作成された全国統一のテストがあります。
SATとACTです。
アメリカの大学の多くが、SATかACTのいずれかのスコア提出を求めています。
これらのテストは年に何回も行われますので、一番良いスコアを提出できます。日本と違って何回もチャンスがあります。
6. 面接
日本の面接とはかなり異なり、面接を行うのは自分の受験する大学の卒業生です。
そのため、受験生はその卒業生に対して大学のカリキュラムや雰囲気などを質問でき、自分が大学を卒業した後をイメージすることができます。
面接を行う大学OBからは、「大学で何をしたいのか」「大学で何が実現可能なのか」を問われるそうです。
そして、その評価が大学当局に送られて、入学判定の対象となります。
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アメリカと日本の大学では学び方が違う
リベラルアーツ教育 「大学時代は幅広くいろいろなことを勉強して、人間形成に努めるべきである」という精神がアメリカ教育の根幹です。
自分は何のために生まれてどういう能力があるのか、大学時代に自分の可能性を見つけて社会に出ていく準備を行い、自己責任を取れる能力を養い、自分の可能性をとことん追求するというモチベーション教育が行われます。
こういった教育を「リベラルアーツ教育」と言います。
人を率いる人間になるには強力なリーダーシップ、幅広い知識、バランス感覚などが必要とされます。
リベラルアーツ教育を通して、文学を愛し、絵を描き、歌をうたいピアノを弾き、天体観察をし、科学の実験をし、スポーツに秀でて、政治や経済について堂々と語れる人間がアメリカ人の理想像です。
アメリカの大学教育は、ここにすべての原点があるため、文系・理系・芸術系・体育系に分ける発想がありません。
アメリカのエリート観
日本ではハーバード大学やその他の名門大学に進学するための情報に人気があります。
多くの人の関心事は、TOEFLやSATが何点必要かということなのですが、スコアが良いだけでは入学はできません。
優秀な学生は、より自分を鍛え磨いている人生の途中で通過するのが、ハーバード大学をはじめとするアイビーリーグ校であったりします。
大学に入るためだけに、多大な時間をかけ努力してきたわけではありません。 大学に入学したからといって目的を果たしたわけでもありません。
日本人が考えるような、有名校卒業後に大企業に就職という考えとはかなり違います。
むしろ、人間とは何か、国や世界は何のためにあるのか、自分は人類のためにどんな役に立つのか、といったようなことを、机上の勉強のみならず、スポーツや芸術、福祉やボランティアなどの経験を通して、自分の考えアイディアを具現化するヒントや仲間を得るために、大学で学ぶと考えるのです。
アメリカの大学はレベルの高いほど、点数や成績は50%、あとの50%は全人格的な要素を考慮するといわれています。
そのため、エッセーや推薦状、面接などがとても重要視されるのです。
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アメリカの大学は学費が高い
アメリカの大学に入学する際の一番の問題点は、その費用にあると思われます。
例えばアメリカの州立大学ですと、その州内に住む学生、州外に住む学生、アメリカ国外に住む学生で、その学費が区別されています。
アメリカ国外から入学した場合は1年間に400万円程度の学費がかかります。 日本の国立大学のおよそ4倍程度となっています。
さらにその土地で暮らすとなると年間100万円以上かかるので、4年間でおよそ2000万円程度かかることになります。
実はアメリカでも大学の学費がとても高いというのは問題になっており、大学を卒業した後は在学中のローンを返済することに、皆追われてしまうという実情もあります。
そのため将来、留学を考えている家庭では、長いスパンで学費を準備しておくことが必要となってきます。
30代大学教員 アメリカ在住
京都大学大学院修了 博士(工学)
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